東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1480号 判決
被控訴人は、右合意解約の意思表示は要素に錯誤があるから効力がないと主張するので判断する。証拠を綜合すれば、被控訴人は本件土地について昭和二十三年十二月三十一日附買収処分が控訴人に対してなされたことを知り、昭和二十四年中に当時平塚市農業委員会の主任書記であつた訴外出繩綱之助を妻ツルとともに訪ねて本件土地は自分が既に控訴人から買い受けたものであるから、右買収処分を取り消して貰えないかと申し入れたが、出繩綱之助は買収処分を取り消すことはできないから、控訴人と話し合つて代金の返還又は代替地の譲渡を受ける外に方法はないと説明をしたので、被控訴人及び妻ツルは本件土地が既に買収処分によつて国の所有に帰したので本件土地の所有権を取得することはできないものと考え、爾後前記のとおり控訴人に対し本件土地が買収されたから売買契約を解約したい旨申し入れて交渉中のところ、平塚市農業委員会が前記のとおり昭和二十六年十二月四日本件土地の買収取消の決議をなしたにもかかわらず、控訴人は出繩綱之助を伴つて前記同年十二月二十五日被控訴人方を訪れツルに対して、出繩綱之助から本件土地は国に買収されたもので控訴人のものでもなく、被控訴人のものでもないから先に支払つた代金の返還を受けたほうがよいとすすめ、控訴人も出繩も右買収取消の決議がなされたことを告げなかつたため、右事情を知らないツルはかねてから聞いていた控訴人の提起した本件土地に対する買収処分の取消訴訟も終り本件土地が確定的に国に買収されたものと思い本件土地が国に買収されたので売買契約を合意解約する外ないものと考え前記のとおり被控訴人の代理人として金一万二千円の返還を受け売買契約を合意解約し、同夜被控訴人に右の経緯を説明し、被控訴人も国に買収されたのでは合意解約もやむを得なかつたと考えていたこと、しかしながら、もしも平塚市農業委員会が同月四日買收の取消をなしたことを知つていたならばツルも被控訴人も右の如く合意解約をなすことはなかつたであろうことが認められる。してみればツルの右合意解約の意思表示は動機において、重大な錯誤があり、その動機は解約の意思表示がなされた際明示されており且かかる場合右動機と雖も効果意思決定の要素と考えることは合理的と認めるから、右意思表示は要素に錯誤があつて効力がないと解すべきである。
(牛山 岡崎 渡辺一)